欧州連合(EU)は、中国によるレアアースや電池材料の輸出規制強化を受け、重要原材料の対中依存から脱却するための対策を急いでいる。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は10月25日、ベルリンでの会議で「ヨーロッパは他国から代替資源を確保し、中国依存を減らさねばならない」と強調した。
■ 背景:中国の輸出規制拡大
フォン・デア・ライエン委員長は「中国が近月、レアアースや電池素材の輸出を大幅に制限しており、これは米中間の経済摩擦の一環だが、EUにも重大な影響を及ぼしている」と述べた。
中国政府は10月9日に、4月に発表した7種類のレアアース金属の輸出規制に加え、さらに5種類を追加規制の対象とした。これにより、全17種あるレアアースのうち12種類が輸出制限下に置かれることになる。
フォン・デア・ライエン氏は「これらの行動は中国以外の国々の産業発展を妨げ、世界の供給網の安定を脅かしている」と指摘。
EUでは使用されるレアアース磁石の90%以上を中国から輸入しており、自動車・産業用モーター・航空宇宙・AI用半導体など幅広い分野で深刻な影響が懸念されると警鐘を鳴らした。
■ EUの対応:「外交優先」と「供給網強化」の二正面作戦
フォン・デア・ライエン委員長は「短期・中期・長期的に欧州産業が必要とする重要鉱物の代替供給源を確立する」と表明。
具体的にはウクライナ、オーストラリア、カナダ、カザフスタン、ウズベキスタン、チリ、グリーンランドなどとの協力強化を掲げ、「ヨーロッパはもはや従来のやり方を続けるべきではない。苦い経験を経た今、同じ過ちを繰り返すことはない」と述べた。
■ 欧州委、対中「対抗措置」も検討
欧州委員会の経済担当委員ヴァルディス・ドンブロフスキス氏は、ドイツ紙《ハンデルスブラット》のインタビューで「中国が輸出規制を緩和しない場合、EUとして対抗措置を取る可能性がある」と明らかにした。
現在、具体的な制裁内容は未定だが、欧州委は今月末までに「対中貿易ツールリスト」を策定し、必要に応じて発動できるよう準備を進めている。
欧州側は、アメリカやG7諸国との連携強化も模索しており、ワシントンで開かれたG7財務相会合でも対応方針を協議。外交努力を優先しつつも、いわゆる「反強制措置(ACI: Anti-Coercion Instrument)」の活用も視野に入れている。
また、EU内部では《重要原材料法(CRMA)》の早期実施を急ぎ、域内での採掘・精錬プロジェクトの促進、戦略備蓄の確保、リサイクル推進を進める方針だ。
■ 中国との協議:ブリュッセルで緊急会談へ
欧州委員会は10月27日に中国代表団と事前協議を実施し、30日にはブリュッセルで稀土輸出問題に関する高官会談を予定している。
中国の新たな輸出規制は、海外企業が0.1%以上の中国産レアアースを含む製品を輸出する場合、許可を義務付ける内容で、欧州の製造業に大きな影響を及ぼしている。
さらに、中国政府がオランダの半導体企業ネクスペリア(Nexperia)の輸出を禁止したことも波紋を広げており、欧州では「経済的報復措置」と受け止める声が強い。
EUは半導体供給の安定確保を最優先課題とし、暫定的に輸出を認める方向で中国側と交渉を進めている。
欧州委員会は、今回の危機を契機に資源安全保障の再構築を進める構えだ。フォン・デア・ライエン委員長は「欧州の未来は、資源の多様化と産業の自立にかかっている」と述べ、今後はサプライチェーン強靭化を中心とした新たな鉱物戦略を打ち出す見通しだ。 中国のレアアース輸出制限は、単なる経済措置にとどまらず、欧州の産業政策と安全保障の在り方そのものを問う局面を迎えている。
 
 