米国地質調査所(USGS)は、アーカンソー州で推定1500億ドルの価値を持つ巨大なリチウム鉱床が発見されたと10月21日に発表した。この発見は、2030年までの予想需要の9倍を上回るリチウム供給を確保できるとされる。リチウムはEVバッテリーの主要原料であり、この発見により米国がリチウムの輸入依存を脱し、国内生産の強化につながると期待されている。
リチウムの埋蔵量と抽出方法
USGSの調査によると、今回の鉱床はアーカンソー州南西部のスモックウォール層で発見され、埋蔵量は500万~1900万トンに及ぶ可能性がある。この量は米国のEV需要を十分に賄うものであり、輸入依存から脱出するだけでなく、バッテリーの安定供給とコスト削減にもつながると期待されている。さらに、リチウムは石油や天然ガスの採掘で生じる塩水廃液から抽出できるため、既存の石油・ガス産業のインフラを利用でき、環境負荷を抑えた効率的な生産が可能とされている。
影響と今後の展開
リチウムの国内生産が進めば、バッテリーコストの引き下げによってEVの価格も下がり、消費者の購入意欲を高める可能性がある。また、リチウム鉱山の開発は雇用創出や地域経済の発展にも寄与し、米国のEV市場における競争力を強化すると見られる。
エネルギー転換の重要鉱物であるリチウムの国内生産を促進することで、米国は供給リスクの軽減と経済的利益を得ることができる。米国の石油会社のエクソン・モービルはすでにアーカンソー州でリチウム井の掘削を開始し、2030年までに100万台以上のEVバッテリーに対応するリチウム供給を目指している。
環境への配慮と課題
アーカンソー州のリチウム採掘には、環境影響への懸念もある。リチウムは塩水廃液からの直接抽出法(DLE)を用いて取り出されるが、この方法は通常の採掘方法と比べて環境負荷が少ない一方、淡水使用や廃棄物処理などの課題も残されている。専門家の間では、DLEによる抽出は地下資源の大規模抽出を避けつつ、廃水を地下に戻すプロセスで環境への影響を最小限に抑えるとして推奨されるが、それでも処理においては慎重な対応が求められる。
今後の展望
現在、アーカンソー州ではリチウム生産は行われていないものの、米国エネルギー省はリチウム採掘企業2社と連携し、アーカンソー州に中央リチウム加工施設の設立を支援する計画を進めている。この施設の建設には最大2億2500万ドルの投資が見込まれており、リチウム生産の本格的な国内展開に向けた大きな一歩となる。
米国におけるリチウムサプライチェーンの確保と増強は、世界的なEV市場競争においても重要な意味を持つ。この発見が契機となり、米国はエネルギー転換と輸入依存脱却を加速させ、持続可能なグリーン交通の実現へと近づいていくだろう。
◆ご参考:USGSの発表内容