レアアースと国家安全保障:米国防総省の脱中国依存

3月、アメリカ国防総省は、安全保障に関する米国内のレアアース供給網の積極的な取り組みを発表した。希土類永久磁石は、民間市場分野だけでなく、F-35戦闘機、駆逐艦、潜水艦、無人機、レーダーシステム、スマート爆弾など、国防用途でも広く利用されている重要な要素である。例えば、第5世代戦闘機のF-35は約408Kg、アーレイ・バーク級駆逐艦DDG-51は約2,359Kg、バージニア級潜水艦は約4,173Kgのレアアースを必要としている。また、(戦車などの)車載レーザー測距器、携帯用レーザー測距器および目標指示装置、光ファイバー通信システム、セリウム光学レンズ、潜水艦の音響変換器などにもレアアースが使用されている。17種類のレアアースのほとんどが何らかの形で使用されており、特にその中の3つ(Nd、Dy、Tb)が多くの防衛システムに非常に重要な永久磁石製造に使用されている。アアース供給は中国に依存しており、これは米国の安全保障体制にとっての脅威となっている。

発表された情報によれば、2020年から、アメリカ国防総省は米国内のレアアース供給網の構築に4.39億ドル以上の予算を割り当てているという。その中には、米国で採掘されたレアアースの分離と精製、およびこれらの材料を金属や磁石に加工するための川下プロセスの育成が含まれている。アメリカは2027年までに持続可能な磁石供給網を構築し、国防に必要なレアアースのすべてを供給できるようになることを目指している。

国防総省の製造能力拡大および投資優先化 プログラム(略称:MCEIP) は産業基盤政策担当の国防次官補室を通じて、国内生産能力を構築するための5カ年レアアース投資戦略を立ち上げた。これには、原料調達、分離加工、希土類の金属化及び合金化、磁石製造が含まれる。供給網各段階の生産能力をすべてアメリカ国内で確保することで、必要な希土類材料や磁石を安定的かつ安全に入手できるようになる。

現在進行中の関連プロジェクトには、希土元素の分離と加工、および磁石製造能力の構築が含まれる(下記参照)。
■ MP Materials(米)は、MCEIPの4500万ドルの支援を受け、米国唯一の総合希土類鉱山および酸化物製造施設を構築している。2025年までに、同社は他の酸化物製品の生産能力をさらに増強する予定。

■ Lynas USA, LLC(豪レアアース大手Lynas Rare Earths社の米国子会社)は、総額2.88億ドルのMCEIP資金を獲得し、2026年までに米国内の酸化物量産能力を構築する予定。

■ Noveon Magnetics(米)は、MCEIPからの2880万ドルの助成金でテキサス州に希土類磁石製造工場を設立。同社は、鉱石抽出材料または回収された材料を使用して、国防および民間用途に適した磁石を製造している。

■ TDA Magnetics(米)は、MCEIPから追加で230万ドルの資金を提供され、国防総省が求めている磁石を調達、製造、販売する能力を示している。

■ E-VAC Magnetics(独VACの米国子会社)は、9410万ドルの助成金を受け、2025年までに希土類磁石製造量産能力を構築する予定。このプロジェクトの一環として、E-VACは国内での希土類金属および合金の生産能力も開発する予定である。

MCEIPはまた、石炭灰、酸性鉱山排水、その他の廃棄物から希土類鉱物を抽出する技術や代替資源の開発に1000万ドルを投資している。これらの支援金は、民間資本を促進し、米国内のレアアースや磁石等の生産能力を増強し、中国への重要な資源への依存を減らすことを目的としている。

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